2019年12月18日

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」エクステンデッド版とジミーの話

※原作映画を予習済みの方向けの内容です。
未見で読まれると何の話だかさっぱり分からない上に、重大なネタバレだけ知ることになるのでご注意ください。また、ここに書いたことは全て個人的な解釈です。
そしていつものことですが、この記事も長いです。


「おめーまだこの映画の話すんのけ!?」と自分でも自分にツッコミを入れましたが、エクステンデッド版&劇団公式の人物相関図を見たらまた語りたくなってしまったもんで…へへっ!
というわけで「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」エクステンデッド版(以下ワンス・エクステンデッド版)の追加シーンと、翔君が演じるジミーについて語ろうと思います。ご興味あればお付き合いくださいませ。

●ワンス・エクステンデッド版の話

さてさて、まずはワンス・エクステンデッド版について。こちらは映画を作成したレオーネ監督の死後、ご遺族の助言などを元にテストフィルムとして撮影された部分を本編に付けたし、「監督の意図に最も近い版」として公開されたバージョンです(とはいえ完全版はレオーネ監督自身の編集によるものなのに対し、エクステンデッド版は監督の死後20年以上経ってから作られたようなので実際の所は分かりませんが)
そんな完全版から追加になっていたシーンは下記の通り。

◆ヌードルスが墓地責任者の女性と霊廟について話すシーン、及び墓地でヌードルスの様子を窺う不審な車のカットが追加。
◆ダイヤ強奪後に車ごと海に飛び込んだマックスたちが海面に浮かび上がるが、ヌードルスだけ浮かんでこないというシーンが追加
◆ヌードルスがベイリー邸の様子を窺っているシーンが追加。この時、墓地で見かけた不審な車が屋敷から出てくるも、そのまま爆発する。ついでに清掃車もちょっと映る。
◆劇場前でデボラを待っているヌードルスと送迎車の運転手が、ユダヤ人として生きることについて話す場面が追加。
◆デボラ暴行後、酒場で泥酔していたヌードルスとイヴの出会い&ベッドシーンと、デボラが汽車に乗る前に一人でレストランにいる場面が追加
◆デボラの主演舞台「アントニーとクレオパトラ」のワンシーンが追加(ヌードルスも客席にいる)
◆ヌードルスと再会する直前に、ベイリー邸でマックスとジミーが密談していたシーン追加

追加シーンで一番印象が変わったのは労働組合委員長のジミーと、ヌードルスの愛人・イヴでした。イヴはデボラショックでヌードルスが作った恋人なのかと思ってたけど、完全に愛人というかヤクザの情婦(イロ)って感じでしたね!
二人の出会いはデボラ暴行事件の直後でして、酒場でやけ酒を煽っていたヌードルスにイヴが声をかけたのが始まり。で、ヌードルスはベロベロに酔った状態で大金をイヴに渡すと「抱かせろ。ただ、名前はデボラと呼ぶ」と迫り、イヴは(良いカモ見つけた!)とばかりに「お安い御用よ」と引き受けた。そのままベッドシーンに突入するも(BGMは何と「アマポーラ」)ヌードルスは酔いつぶれて寝落ち…という、何かもう色んな意味で「あーあ…」とため息ついちゃうシーンでした(笑)。

あとヌードルス、マックス、デボラも追加シーンを見てちょっと印象が変わったかな…でもまぁ、映画としての完成度は「完全版」の方が高いと思います。追加映像部分はテストフィルムを使っていることもあり、画質が急に悪くなるんですよね。何も知らないでエクステンデッド版から見ると違和感が凄いんじゃないかな。
そして全体的に説明的なシーンが完全版ではカットされていたんだな、という印象です。エクステンデッド版の追加シーンを見ると話の繋がりが分かりやすくはなるけど、情報とはありすぎても物語をつまらなくするもの。ヌードルスとイヴの関係なんかは完全版の方が色々想像できる面白さがあったし、そういう「観客の想像に任せる」部分が多い完全版の方がこの作品の雰囲気には合っていたように思います。


●人物相関図とジミーの話

見た瞬間、「なっっっっっが!!」とつい笑ってしまった劇団公式の滅茶苦茶長~~い人物相関図www
あれを見て、イケコ先生は当時の社会情勢を分かりやすくする人物関係を作ってくれたんだな~!!と嬉しくなりました。
映画初見時、ジミーの労働組合とギャングの関係ってのがよく分からなかったんですよね。なのでベイリー長官の汚職事件のあたりも何とな~くしか把握できず…「とりあえず、悪いことやってたのがバレたんだな!!」くらいの理解度でした(笑)
でも当時の時代背景やジミーのモデルとなった人物についてちょっと調べてみると、おそらく映画公開当時は特に説明しなくても「あぁ、ジミー・ホッファの事件が元ネタか」と分かる観客が多かったんだろうと思います。名前もそのまんま「ジミー」にしてるくらいだし。
ということで、ざっくりですがワンスのジミーのモデルとなったジミー・ホッファという人物についても紹介しますね!


大恐慌時代、ドイツ系移民のジミー・ホッファ(以下ホッファ)は食品チェーン店で配送の仕事をしていました。しかし過酷な労働条件に不満を募らせ、ある時ついに同僚たちと仕事をボイコット。ストライキを起こして労働条件の改善を迫りました。
当時、アメリカでは多くの移民が過酷な労働条件で働かされていましたが、ストライキは法律で禁止されていました。その上雇用者たちは、反抗的な労働者を暴力で従わせることも多かったようです。超不景気だったこともあり、雇用側が圧倒的に強い立場にいたわけですね。そんな中、法律にも暴力にも怯まず立ち上がり、仲間たちを扇動するカリスマ性も持ち合わせていたホッファは、やがて全米トラック運転手組合(労働組合)の委員長になります。

しかし、ホッファは「やられたらやり返す」タイプの人間でもありました。雇用者側の暴力に対抗するために、自分もギャングを味方に引き入れたのです。アメリカの労働運動の裏側では、雇用者側と労働者側のそれぞれが雇ったギャングやマフィアの抗争が起こっていたのでした。
そしてホッファは、雇用者には「こちらの条件を飲まないとストライキを起こすぞ」と迫り、ストに非協力的な労働者(スト破り・非組合員と呼ばれる人たち)には「ストに協力しないと痛い目を見るぞ」と脅し…えげつない手を使いながらも支持者を集め、組合をどんどん大きくしていきました。その影響力は政治の世界にまで広がり、1960年代には共和党・民主党に次ぐ第三の政治勢力にまで成長します。
しかし裏社会との繋がりや、組合年金の不正運用を問題視されて1967年にはついに投獄されることに。それでもなんやかんやで上手く立ち回って4年で出所し、再起を計っていたホッファですが…1975年7月30日、彼は突然失踪します。

この失踪は全米中で大きな話題となり、「車ごと圧縮機にかけられた」とか「バラバラにされて野球場に埋められた」とか様々な都市伝説が生まれました。いずれにせよ、もう旨味がなくなった彼を邪魔に思った裏社会の誰かに殺されたのだろう、というのが一般的な見解のようです。


というのが実在したジミー・ホッファの来歴なのですが…最後の辺り、誰かを思い出しませんか?
そう、映画の中でマックスが辿った末路と似ているんです。
大物のマフィアやギャングたちと裏で繋がって上手くやっていたはずが、いつの間にか用済みの人間と見なされて始末されてしまう…そして一際ゾワッとしたのが、「ジミーは殺されてバラバラにされた」という都市伝説の部分。
ワンスのクライマックスで清掃車を登場させたのは、この都市伝説を彷彿とさせる意図もあったんじゃないかと思います。

ワンス・エクステンデッド版では、ヌードルスとマックスがベイリー邸で再会する直前に、マックスとジミーが密談する場面が追加されていました。TVニュースのインタビューでは「自分は清廉潔白だ」なんてしれっと話していたジミーの、本当の姿が分かる場面になっています。
マックスとジミーは35年間癒着しながら、お互いに利益を得ていました。しかし汚職の嫌疑から逃れられなくなったマックスをジミーが見限り、マックスの権限を他者に譲って自殺するように迫るのです。この時のやり取りで、ニュースで報道されていた自動車爆発事件もジミーの差し金らしいことが分かります。追い詰められたマックスは、自分だけ逃げようとしているジミーに怒りをぶつけながらも、最後には権限の譲渡を受け入れます。そしてジミーは今夜中に命を絶つようマックスに言い残してパーティー会場へ姿を消し、入れ替わるようにヌードルスがベイリー邸へやって来る…という流れです。

ワンス・完全版ではこのマックスとジミーのやり取りがカットされていたこともあり、労働組合とギャングの関係なぞ知らない私のような人間には正~直話が分かりませんでした!
でもある程度アメリカの近代史や社会事情を知っている人が見れば、この場面がなくてもマックスとジミーが癒着していたことは想像が付くことでしょう。
加えて、その後に登場する大型トラックの清掃車とゴミをバラバラに粉砕するローラー。あれを見ればホッファの事件を思い出す観客も多いだろうし、説明っぽくなる密談シーンをカットして想像の余地を残した方が面白いとレオーネ監督は考えたのかもしれません。

ちなみにあの清掃車の場面、歩いて来るのがマックス役のジェームズ・ウッズではなく別の役者だって初見で気付かれた方っているのかなぁ…?私は言われるまで全然気付きませんでした(笑)
これはBDの特典映像でジェームズ・ウッズがコメントしていたのですが、あの場面で監督はあえて替え玉の役者を使ったんだそうです。本当にマックスが清掃車に飛び込んだのかどうか「見た人の想像に任せたい」と考え、意図的に観客を戸惑わせようとしたんだとか。マジか、監督の狙いがすごすぎて恐いよ!!
「一つ確かなのは、マックスが翌日の夕食には現れないこと。それが伝わるのが大事で、どうやって死んだかは関係ない」というのが監督の言だそうですが、ホッファの最期を皮肉る意味も込められていたんじゃないかなぁ…ワンスにおいて、ホッファをモデルに作られたキャラクターはジミーですが、マックスにもホッファのイメージが投影されていたように思います。
それと同時に「大きなトラックの陰にマックスが姿を消す」という映像が、ヌードルスとマックスの出会いの場面(馬車の陰でスリを企んでいた場面)を思い起こさせる効果も生んでおり、とても重層的な意味を持つ場面にもなっています。
清掃車の外装に「35」と大きく書かれていたのも印象的でしたねぇ…ヌードルスとマックスが35年ぶりに再会したことにかけているんでしょう。
彼らがすれ違い続けた35年という長い時間。ヌードルスが大切にしてきた美しい思い出。そしてマックスが築き上げてきた全て。それら全てがゴミ清掃車に粉砕されてしまったかのような虚しさと哀愁。
台詞が一切ないのに、ここまでインパクトのある場面を作ったレオーネ監督って凄いなぁと改めて思います。

ただまぁ、1930~70年代のアメリカの労働問題を詳しく知っている人なんて現代日本では少ないでしょうし、舞台版ではそこら辺を分かりやすくするためにもジミーの役を膨らませたんだろうと思います。
青年期の人物相関図を見るとジミーがストライキを起こす運送会社の社長や、その会社と癒着しているマフィアの存在がしっかり書かれていますもんね!映画ではあまり描かれていない、労働組合のカリスマリーダーとしてのジミーが見られるんじゃないかとワクワクしますわ~!!
そしてエクステンデッド版のマックスとの密談シーンもあるとしたら更に楽しみ!
マックスを追い詰めるジミーの「こいつが一番悪者なのでは?」感がとても良かったので、舞台上でさきちゃんを追い詰める翔君が見られるかもしれないと思うと…は~~めっちゃ楽しみじゃんね!?
「ひかりふる路」で、さきちゃんのダントンを追い詰める翔くんのロラン夫人がさ、も~滅茶苦茶好きなんですよね…そんな雰囲気がまた見られたら嬉しいなぁ。
ついでにマックスとジミーはどちらもジミー・ホッファをモデルにしている部分があると思うので、その二人を彩彩が演じるというのも面白いのではないかと!思います!!まーどっちも酷い人間ですけどね!!(笑)

しかしエクステンデッド版…Amazonの商品説明には「マックスとジミーの密談シーンが追加されている」とだけ書いてあったので、「密談ってどのタイミングでしてるの!?35年前!?それとも現在!?」と悶々としましたが(それによってマックスとヌードルスの解釈が変わるかもしれないと思ったので。結果的に、エクステンデッド版を見てもそこは変わりませんでした)
このタイミングでムービープラスがエクステンデッド版を放送してくれたのが本当にありがたかったです!ツイッターで放送を知ることができたのもメチャメチャありがたかった…は~インターネットありがてぇ!!

とりあえず、観劇前に出来る限りの予習はしたように思うので後はイケコ演出版を楽しみに楽しみに待ちたい所存です!!
人物相関図でマックスからデボラへの→を見て「おっ、そう来るのね」と思ったし、清掃車は出てこないそうなのでどういう結末になるのかも楽しみだよ~!!


…あと本当~にどうでもいい余談ですが、ギャングとマフィアの違いって皆さんご存じでした?私は知りませんでした。
どっちも犯罪と暴力で金を稼いでるのは同じなんですが、マフィアはイタリアのシチリア島で活動する、あるいはシチリア島にルーツをもつ組織というのが元々の定義なのだそう。
だからヌードルスたちはマフィアではなく「ユダヤ系ギャング」と紹介されるわけですね、なるほど。

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